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雨宿り

テンコウに拾われてそんなに間もない頃の飛皋。



ザーザー。
 ザーザー。
 明け方から降り始めた雨は止むどころか強さを増すばかり。
 外での用事を最低限済ませた村人は急ぎ足で家へと帰る姿をぼんやりと眺めた後、空へと視線を移した。
 雨がこのまま降ればどうなるかは、誰よりも男は知っている。
 ここでこのまま雨に打たれればどうなるかも知っている。
 けれどやめようとは思わない。
 何故?あんな得体のしれない男の言うがままになるのか。
 何度も自分に問った。
 どれだけ考えても答えは出ない。
 考えようとすればするほど、自らの雨に流されるかのように答えは出ない。
 すべてを見通すことのできる天帝ならば、この意味を知っているのだろうか。





 随 分と久しぶりのぽかぽかとした温かさに驚いた。
 …懐かしい。
 いつからか忘れていた感覚。
 その心地よさにもう一度目を閉じようとしたとき声をかけられた。
「目が覚めたかい?」
 誰だ!
 何かの気配を警戒することは生きていたころからの常だが、それが物音一つにでも敏感に警戒するようになったのは死んでから。
 それが日常になっているというのに声をかけられて、いや寝台の真横にいるのにまったく気づかなかった。
「粥でも食べるかい?」
 こちらの心情にも気づいたようすもなく、湯気の出る温かい粥を寝台の横の机に置いた。
「氷のように冷えた体も少しは温まるだろうよ」
 ほんの少し声の主の声音が和らいだ。
 何故か声の主、老婆に逆らう気も起き ず言われるがままに粥に手を伸ばした。
 熱いと感じた粥ものどを通ると体中にほんわりと温かさが広がる。
 また、懐かしいと思ったが首をひねった。
 何故「懐かしい」と思うのだろうか。今の男の住処は温かさとは無縁の冷たく暗い洞窟の中だというのに。
 粥をすくおうとレンゲに視線を落とした。そうだ、今の体は食を取る必要がないから懐かしいのだ。
 気づいた瞬間涙が出そうになった。
「あんた、冷たい雨の中倒れてたんだよ覚えているかい?」
 思わぬ、そして望まぬ形で手に入れたこの体はヒトではない。
 休むことも、食を取る必要もない。
 「思う存分雨を操ってみるがいい」と男に体を与えた男は言った。
 さほと苦もなく、気が付けば雨が降っていた。
 止める術を知らぬわけでもないがなんとなく降ったままにしたらどうやら倒れたらしい。
 休むことも、食を取る必要もないが、限界はあるらしい。
「食べたら、もう一度ゆっくり休んだらいいよ」
 皺だらけの手はそっと男の頭を撫でた。
 思わずうなづき、言われるままにしようとしたとき頭の中で声が聞こえた。
 それは暗い洞窟の中で何度も聞いた得体のしれない謎の男の言葉。
 胸に宿りはじめた温かさはどす黒い感情にかき消された。
 そうだ、今の俺は…
 まるで幼い子供を寝かすように見守っていた老婆をそっと制す。
「世話になった」
 背にかかる老婆の声も聞かず、外へと飛び出した。
 雲の隙間から覗いた太陽は雨雲に覆われ、再び雨が降 り始めた。
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