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井宿と心宿 サンタタグ2016 コウさんへ

ザッザッ!と雪を踏みしめる音がシンと静まる銀世界の中響く。
 神座宝を追い一番に飛び出したのは美朱。次に後を追ったのが鬼宿、翼宿。年少の張宿の足に合わせた軫宿。そして少し後ろに井宿と続いた。
「井宿、俺たちのことはいいから美朱を追え!」
 気を探れる彼ならすぐに美朱に見つけることが出来るし、旅人の足ならばすぐに追いつくことも可能なはずだ。
「いや、美朱には鬼宿たちがついているから大丈夫なのだ。それよりもバラバラに分かれる方が危ないのだ」
 逃げたと見せかけたあの狼が近くに潜んで朱雀七星士の隙を狙っているかもしれない。
 可能性としては低いが、その他の可能性がなくはない。仲間が一人倒れた今慎重に動くべきだ。
「それに今から追いつくには術を使わなければいけないのだ。術は出来るだけさけた…」
 不意に言葉が止まり、足も止まった。
「井宿?」
 細い眉が怪訝に潜めていて右斜め後方を凝視している。
「どうかしましたか?」
 問いにはすぐに答えず、雪深い山では邪魔だとどこかへ締まっていた笠を取りだし張宿と軫宿に差し出した。
「張宿と軫宿は翼宿たちと合流するのだ」
「え?」
 半ば強引に二人に被らせその場から消えたのを確認し落ちた笠を拾う。雪を軽く払うと井宿は笠を被らず首にひっかけた。
 一息つくと気合を入れるかのように息を飲むと先程凝視していた場所に歩いていく。いつでも術を使えるよう左手に印を作って。








 突然巨大な気を感じると、眼で見るよりも早く防御よりも避けると判断し足に力を入れる。
 振り向くと近づいた気弾は想定していた気よりも大きく感じた。いや向かってくるスピードが速い!
 自身の身体能力を過信するつもりはない。
 間に合わないと判断すると顔面で手をクロスにして防御に徹する。
 防御自体は間に合ったが気弾の威力が強い。足で踏ん張るが威力は止まらず後ろは柔らかい雪だ。
 足の力を抜き受け身の体制を取ると数メートル吹っ飛ばされるが半減した威力と雪のお蔭で雪まみれになっただけだ。
 無駄な体力は使うべきではない。なんせ相手は
「流石術師というべきか。やはりこの程度では倒れぬか」
「…心宿…」
 後方から青龍七星士が襲ってくる可能性は考えていたがこれは想定外だ。
「やはり貴様が殿を務めるか」
 不敵に笑みを浮かべる心宿。
 警戒心は解くことなく、冷静を装いながらいつもの調子で口を開く。
「オイラに何か用なのだ?」
「朱雀七星士最強という貴様の実力を試してみようといったところか?」
「あいにくだがオイラはそんな暇はないのだ」
 そうは言うものの、ここに来たのは心宿の足止めだしなるべく戦闘は避けたいというのも本音だ。
「倶東軍の将軍ともあろうものが随分と暇なのだ」
 「気の扱いを得意とするもの同士、互いの実力は気になるのが普通ではないのか?」
「確かに気にならないといえばウソになるが、今は時ではないのだ」
 瞬間井宿の気合の言葉と共に心宿の足元から雪が舞う。
 いや、舞うなんて可愛らしいものではない。北甲国の水分を含んでない雪は軽く井宿と心宿の間に雪の壁を作るだけでなくすぐそばの心宿に容赦なく降り積もる。
 見た目が派手なだけで実質的に効果は目くらまし以外の何者でもない。
 それは術を放った井宿自身承知の上。一瞬気をとられるだけの僅かな隙が井宿の目的。
 その隙に呪縛を仕掛ける。
 ピタリと動きの止まった心宿。だが動かずとも気は操れることは出来る。
 真っ白な雪の中一瞬青い閃光が走った直後井宿めがけていくつもの気弾が襲いかかる。
 足止めのつもりだった井宿には想定外で一瞬反応が遅れる。
「くっ…」
 避けることも一瞬考えるがそれには数が多い。
 印を組むと、襲い来る気弾一つづつに同じ力の気弾を撃って相殺する。
 おもしろいとばかりに心宿はにやりと笑うと少しの溜め時間の後渾身の気弾を放った。
 それを見た井宿は狐目を一瞬歪めるが瞬時に数珠に両指をかけそのまま腕を前へつきだす。
 先程とは違い簡単には相殺せず二人の攻防に再び雪は舞い上がり、落ちずに水蒸気となって二人の体を濡らす。
 パァン!と渇いた大きな音が響くと辺りに静けさが戻る。
 心宿が息を吐き肩の力を抜き腕を下ろすのを見た井宿がいつの間にか呪縛を解いていたと今更気付く。
 心宿が仕掛けてこないのを確認して井宿も息を吐く。
「なかなかやるではないか」
「そちらこそ、なのだ」
 共に健闘を讃え合い笑みを浮かべるが、内容は別種の物。
「なるほど。いつぞやの結界を破る技といい、随分と小賢しい」
「それは褒め言葉と思っていいのだ?」
「フン。そのようなやり方で私の気弾をかわされたのははじめてなのでな」
「オイラも息つぐ暇もないほどの気弾をあれだけ速度とは、流石に驚いたのだ」
 二人ほどの実力者ともなれば少し相対すれば相手の実力は分かるがそれはおおよそでしかないし専門分野までは服装や装備品、相手の言動などで察するしか出来ない。
 時には複数の技を組み合わせ小手先で相手を翻弄し隙を見つける井宿とは違い、生まれ持った強大な気を惜しむことなく表に出す力押しの心宿とでは互いに相性がよくない。
 話し合いで応じる相手ではないのは百も承知。次はどう出るか、と策を練る井宿に思わぬ声がかかる。
「随分と器用に操るな…術者は本来なら師に付き口伝で教わるという。縦の繋がりは強い分横のつながりはほとんどない。だが一定以上の実力者ともなれば術者の世界で噂程度とはいえ名が知れ渡るのを知っているか?」
「だ?」
 思わぬ話に首をひねる井宿に声を心宿が殺して笑う。
「その様子では知らぬようだな。私はもちろん朱雀七星の炎を操る翼宿、自然治癒高める軫宿の二人はこの業界では有名だという」
「…何が言いたいのだ?」
 文字通り意図が読めない。
「だが、これほどの実力を持つ貴様の名はどれほど探っても出てこぬらしい。どこかに所属していたなら当然、そうでなくとも影すら出てこぬということがどういうことか分かるか?」
 クククと気味の悪い笑みを浮かべる心宿。
「七星士の能力出現には大きく分けて二通りある。自然と気づく者もしくは自らの危機で気づく者。貴様の場合後者であろう。そして貴様らしき狐目の僧侶の噂が出てきたのはここ二年程。能力の取得期間に数か月から数年」
 初めて他人から聞かされる自分の過去。
「貴様の容姿、言葉使いは紅南の物。二年から長く見て七、八年で紅南で起こった不可思議な事件天災。それらを総合すると…」
 いくつか紅南で起こった事件事故を候補を上げる心宿。
 ゆっくりと告げられるそれはまるでカウントダウン。奥へ奥へ封印した過去の箱がこじ開けらようとする。
「昇龍江の氾濫…」
 指摘された井宿は何も言えずに佇んむことしか出来ない。
「くくく…あながち間違いではない、という感じか。尤もいくら我が倶東の間者が優秀といえど 小競り合い程度のいざこざまで把握することは不可能だがな」
 小さく震えるのは慣れない北甲国の気温だけではない。
 いや、過去を知ってどうする。心宿には必要のない情報のはずだ。
「何があったにしろ、あまりにも突然の出現、余程の…いや人すら入る事が出来ぬような場所か」
「何故、そんな事を…」
 そう、そんな事を調べたところでなんの役にも立たないはずだ。鬼宿のように人質にとるような家族もいない自分の過去など。
 思わず前のめりになり、数珠がカランと小さく音を立てた。
 やっと見慣れてきた新しい数珠。それは太一君から頂いたもので簡単に気を乱すような自分に渡したものではない。
「そういうあんたこそ」
 そういえばと思う。特徴的な金に近い明るい髪は倶東のものではない。
「いや…」
 首を振る。そんなこと気にすべき時ではない。今は朱雀七星士の一人として美朱を見つけるまで心宿を足止めすること。
「そんなことよりも、ここでもう少しオイラと遊んでもらうのだ!」
 気合の言葉と共に心宿の足元めがけて術を放つ。
 目的は先程と同じ雪を煙幕代わりに使う事。だが違うのは、
「目障りだ!」
 青い閃光は風を生み舞い広がった雪を吹っ飛ばす。が、そこに井宿はいない。
 目を閉じ周囲の気配を読むことに集中すると、一瞬朱の気配。
「そこか!」
 心宿が腕を振るうと衝撃波が井宿に向かって走る。
 当たる!と思った瞬間井宿の姿が揺らぎ、姿を消す。
 舌打ち一つして仕切り直し。
 再び朱の気配。が、これも同じ結果。これが何度か繰り返されると奥歯を噛みしめた。
 これでは言葉通りの「遊び」だ。
 さらに腹が立つことに気配を感じるのは姿を見せる一瞬だけだ。心宿から手を出すことが出来ない。
 それなら尚の事、その一瞬にどれだけ早く攻撃を仕掛けるかだ。
 そして再び朱の気配。と目を開けた瞬間心宿は思わず後ずさった。
「だー!」
 眼前…ほんの少し手を伸ばせば届くような距離で三頭身の狐僧侶。
 流石にこれには頭に血が上ったようだ。
「小賢しいっ!」
 気弾ではなく体術で井宿に向かい腕を勢いよく伸ばす。
 体術に持ち込まれると不利なのは井宿の方だ。恵まれた体格だけでなく兵としての訓練を十分に受けた心宿には到底かなわない。
 慌てて距離を数メートル取る。
 一息つく間もなく、心宿が井宿に向かい走る。
 一瞬で判断し次の行動に移さなければ捕まる程度の距離だ。距離を詰められ、勢いよく伸びた逞しい腕を紙一重で避けると、その鋭さに息を飲んだ。
 当然術を使う時間を与えるつもりはなく、後ろへ後ろへと追い詰められていく。
「ぐっ…」
 心宿の拳が井宿の右肩へと当たる、思わず足を止めると今度は心宿の蹴りが脇腹に直撃する。
 たまらず吹っ飛ばされた。
 立ち上がろうとするが痛みが邪魔してうまく足に力が入らず、今仕掛けられたらと思う井宿だが心宿は仕掛けてこようとはせず僅かに荒れた息を整えている。
「貴様…」
 井宿に向けて再び手を上げ青い光が心宿の手に集まる。
 その気の量にこれは本気だ…。そう判断した井宿は自身の周りに結界を張る。
 今度は小細工など一切なしだ。本気対本気。
 朱雀七星士井宿として、負けるわけにはいかないのだ。
 心宿の目がギラリと光る。
 来る!と渾身の結界完成させた時…二人の間に火焔が走った。
「井宿っ!」
 こちらに集中していた心宿は完成間近の気弾を炎の出所に向かい放つ…が心宿の頭上から鬼宿が拳を握りしめ飛び降りる。
 奇襲に気弾は目標から随分外れたところで岩にでもあたったのだろう破壊音が響いた。
 思わぬ展開をぽかんと眺めていた井宿の周りに仲間たちが集う。
「井宿ずるいで!こんなおもろいこと俺も誘わんか」
「翼宿…」
 何故…
「朱雀七星士…」
「心宿、てめぇ」
「どうしてみんなここに?」
「翼宿さんのところへ行くとすぐに鬼宿さんと合流することが出来たんです。美朱さんは少し休んでから合流するそうです、大丈夫です」
 隣でうなづく軫宿。
「興ざめだな…ここは朱雀七星に免じて引くとしよう」
 五人の朱雀七星士を目の前に言葉通りあっさりと背を向ける心宿。
「五人相手に逃げれると思ってんのかよ」
 一対五という絶好の環境を逃すまいと血気盛んな二人が飛びかかろうとする。それを止めようとした井宿は利き手を伸ばす、が痛みに思わず手が止まった。
「っ!」
「井宿!」
「まずは井宿さんの手当てをしましょう、鬼宿さん翼宿さん!」
 最大の敵をそう簡単に逃すことは出来ないが先程柳宿を失ったばかりだ。これ以上仲間を失いたくないという思いは誰もが共通している。
 追う気配がなくなった朱雀七星士たちを笑みを浮かべる心宿。
「甘いな…」
 そう不敵に笑い、姿を消した。



・・・・・・・・・・・・・・・・
サンタタグに参加ありがとうございます。コウさん。
いや強引にお誘いして申し訳ないです。

少し前に「みんな心宿との戦い書こうよ!」とおっしゃってたのでこれにしました!
結界の隙をつくとか相手にそっくり変身とか、すごい細かいこと得意なんですよね(多分)
力押しの心宿と小細工の井宿、考えて楽しかったです。もっと井宿にいろんなことやらせたかったー!
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