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井宿と太一君 サンタ2016 むおんさんへ

一人扉の向こうに残った巫女。
 誰一人先に部屋へ戻ろうとはせず扉の外で巫女を待つ。
 新たな仲間の張宿の自己紹介がひと段落しはずんでいた話題も底をついてくれると自然と時間の経過を感じる。
「しっかし、なげーな」
 一人そわそわと何度も扉をちらちらと見る鬼宿は呻く。
「ケチケチせんと美朱だけやのうて全員に聞かせたらええやないか」
 気の短い翼宿が同意を示す。
「巫女には巫女なりの使命があるのやもしれぬ。力になれぬことは悔やまれるが我々にはやるべきことがある。それを考えねばならぬ」
 北甲国へ向かう手段を考えているのだろう。端正な顔には思案の様子がうつる。
「まぁ。太一君が何してるのか分かんないけど、美朱落ち込んでいるだろうから励ましてやらなきゃね!」
 仲間だと思っていた亢宿の死は誰もに衝撃を与えた。
「あの子、その場にいたんだから」
 死んで当然とまで言った翼宿でさえこの話題になると途端に口数が減る。
 下を向いてしまった張宿の肩に大きな手が優しく添えられる。
「お前のせいではない」
「しかし!」
「そうなのだ。張宿のせいじゃないのだ」
 珍しくいつもの笑顔を少し歪めて黙っていた井宿が口をはさむ。
「オイラ達は認識を改めなくてはいけないのだ。敵と戦うということはどういうことかを」
 誰もがその覚悟が出来ていなかった結果でもあるのだこれは。
「そんな言い方!」
 短い間だが仲間として亢宿を敵だから諦めろと言っているのと同意だ。
 当然ながらそれはそれまでごく普通の暮らしをしていた簡単に受け入れられるものではない。
「いや井宿の言うとおりだ。甘かったのだ、我々が」
「星宿様…」
 倶東と紅南の現状の違いは噂程度でしか知られていないし平和な紅南国の人間には漠然と想像することしか出来ない。あまりにも環境が違いすぎるのだ。亢宿が何を背負って「張宿」と名乗ったかなどは想像もつかない。
 小さなこぶしを握り締め涙をこらえんばかりの張宿に井宿は目線を合わせるようにしゃがむ。
「張宿。決して君のせいではない。誰のせいでもないのだ。それでももし責を問うなら君ではなく彼と共にいたオイラ達の方が責を負うべきなのだ。だから君が気に病む必要はないのだ」
 頭をくしゃりと撫で狐顔で微笑むと立ち上がり少し離れた所で手すりにもたれかかり数珠を手に取って眺めた。
 そんな井宿に反論した柳宿でさえ何も言えなかった。
「美朱大丈夫かしら?」
 太一君と二人で廟の中で何を話しているのやら。自然と朱雀廟の扉に目が行った時ガタンと音を立て扉が開いた。
  太一君に何を言われたのやら、顔色の優れない美朱を伴い自室へと戻る仲間たちの背を見送った井宿は美朱が今まで入っていた朱雀廟へと踏み入れた。


 先程出たばかりの朱雀廟だ。なんら変わりはない。燃え盛る炎に太一君がいない事以外は。
 数珠に指をかけ周りの気を探り、手を放すと共に小さく溜息を吐く。
「太一君、居るのでしょう?」
 何度か呼びかけると井宿の数メートル前に太一君が突如現れる。
 想定の範囲内、いやむしろ違う意味で想定外の井宿は驚くことはない。
 ドアップでなくてよかったのだ…
「何用じゃ?」
 気怠そうに答える太一君に井宿は頭が痛む思いだ。
「何って太一君が呼んだのだ…」
「おぬしなんか呼んでおらぬわ」
 井宿の言い方に気を悪くしたのかそれともドアップ云々の心の声が読まれたのかぷいっと顔をそむける。
 2度目の溜息を吐き、ゆっくり口を開く。
「この数珠…見た目は変化したように見えるのだが、巧妙に幻術がかけらえれているだけなのだ」
 その言葉に太一君の目が光る。
「巧妙じゃと?…フン、そんなもんただの幻術じゃ」
「その、ただの幻術をオイラの数珠にだけかける理由を聞きたいのだ」
「お前…朱雀廟にいたときは気づいておらんかったじゃろう」
 太一君に真正面から意見を言っていた一瞬井宿の目が泳いだ。
「まぁ気づいただけでよしとしようかのぅ」
 ホッと息を吐いたのもの束の間。
「じゃが、幻術がかかっておると知りながら何故そのままにしておる?わしの術じゃからか?それとも幻術は専門外とでもいうのか?敵の策略に嵌り朱雀を召喚することが出来なかったおぬしがか?甘いと考えを改えよとよく言えたものよのぅ」
 毒という名の事実を投げかける太一君の言葉に拳を握りしめる。
「た、確かに…」
 少し間を取り腹から声を出す。
 太一君に言い負かされ数日は立ち直れなかった過去を思い出し言葉を選ぶ。
 怒っているわけではないはずだ。ならば自ら解決する言葉を待っているのだ太一君は。
 大体今この状況で自分を再起不能にする必要はないはずだ。
「確かに、幻術を解かなかったが褒美と言ってみんなに渡した贈り物に幻術がかかっていたのはオイラだけなのだ」
 一応確認したしみんなの様子を見る限り確実だと思う。
「太一君の術経由で他者が…青龍七星士が何かを仕掛けてくるとは思わないし、例えそうだとしてもその中でも唯一ともいえる術者であるオイラに術をかけるとは思わない、むしろそれオイラにだけ気づかせるため…つまり太一君がオイラを呼んだということなのだ」
「ほう?言いたい事はそれだけかの?」
 首を振る。
「術を解かなかったのは、太一君からの呼び出しなら解く必要はないのだ。何よりもあの場で突然オイラが術なんて使えば何事かと思うのだ。ただでさえ落ち込んでいるのに」
 そうだろうとばかりにニコリと笑う井宿に太一君がフンと鼻を鳴らす。
「物は言いようじゃのぅ。わしとしてはその幻術を解くのにどれくらい時間を要するか、見物であったんじゃがのぅ」
 意地悪い笑いに慌てて数珠に二本指を立てる。
「だっ…太一君これっ」
 太一君の仕業だと確信してから後回しにしていたが、とてもこの術は自力で解けるとは思えない。
「娘娘がおもしろがってかけた術じゃからのぅ」
「だっ!」
「「井宿一生懸命頑張れば解けるね!」とかなんとか言っておったが」
 娘娘の言う「一生懸命」って…考えるだけで頭が痛む。
 にやにやと笑う太一君。共犯としか思えない。
 さてどうするかと考え始めたところで頭をふるう。
「ところで美朱と何の話をしましたのだ?」
 突然の話題変更におやと目を見張るがそれも一瞬のこと。
「そんなもん巫女の心得を確認したまでのことじゃ」
「巫女の心得、ですのだ?」
 今頃何を?
 一度体調崩し太一君を頼り大極山を訪れたという。その時のことを詳しくは聞いていないがただでこの大極山へ入れるとは思えない。
  首を傾げる井宿に太一君はにやりと不気味に笑う。
「お前には無縁の世界じゃろうがなぁ」
「だあ?」
 素っ頓狂な声が上がる。尚更意味が分からない。
 「そのような娘だからこそ朱雀神は求めるのじゃろうな。じゃが召喚となれば話は別じゃ」
 美朱にあって自分にない、朱雀の求めるもの。そしてそれは召喚には不向きな。
「一体何を…」
 何故心得の話から自分に結びつくのだろう?
 朱雀の象徴は愛…とそこまで考え頬が赤くなった。
「なっ」
 そんな美朱はまだ子供だそんな事は…と思うがあの二人ならと、考えれば考えるほど頬が熱くなるのを感じる。
「何をそんなに動揺する必要がある。お前自身房中術は学んだじゃろう」
「だ!そ、それは術で一つであって」
「基本的にやることは同じじゃろう。それにそれは人として自然なことではないのか?」
 問われた井宿は言葉に詰まる。
「お、オイラに聞かれても…」
「フン、お前には聞いても無駄なのは分かっておるわ」
 動揺も一蹴され解放されるが、されたらされたでどこかも飲みきれないものが残るが。
「お前も言ったように美朱はまだ子供じゃ。まだまだ若造とはいえお前も年長者じゃ。巫女のためにやれることは能力だけではあるまい」
 内容よりもその声音に息を飲んだ。
 思わずそらしそうになる視線を無理やり合わすと胸に刺さるような強い眼光と合う。
 そして確信する。
 これが太一君がオイラを呼んだ理由だ。
 何が言いたい?
 年長者である自分はまだ子供である美朱を支えろ。
 そんな簡単な内容ではない。その裏にある言葉は?
 朱雀の炎がゆらりと揺れ炎の中に浮かび用事を終えた太一君は徐々に薄れゆく。
「た、太一君!」
 思わず叫んだ。
 呼び止めたはいいがどう聞けば…
 胸元で握った拳が数珠にあたり小さな音を立てて気づく。
「数珠」
 そうだ、数珠の問題が結局は解決していない。
 だが太一君には解決事項だ。一度決定したことを覆すのは容易ではない。
 何を言うべきなのか。
 そう太一君は何をするべきか。それを問うているのだ。ならば
「術にかかった幻術を解いてほしい、オイラにも数珠を」
 能力だけではないと太一君は言ったのだ。
 自分以外が出来るのなら略する作業だ。
 大体娘娘の遊びに付き合っている暇はない。…考えるだけで体が重く沈み小さく震える。
 想像の中なのに肩を落とした井宿に向かって珍しく嫌味のない笑みを浮かべる。
 意味が分からず訝しんでいると首にかけていた数珠が光り出しはじけた。
「だー」
 偽物ではない新しい数珠に思わず感嘆の声を上げた。
「お前は巫女を仲間を支えようとしておる。じゃがお前もその仲間の一人じゃ。もう一度言う。それは本来持つ力を更に高める効果がある。使い方をよく考えるんじゃな」
 一人残され、バチバチと炎が燃える音が響いた。



***


 自分の担当すべき役割を終え北甲国への出発までの時間、久々に羽を伸ばす。
「釣りなんて、すごく久しぶりな気がするのだ」
 井宿の名乗り出るまでは気が向けば釣りをしていた気がする。
 それほど前ではないというのに。
 十分に休息もとったからか常に付きまとっていた気怠さもない。
「思えばずっと術を使いっぱなしだったのだ。太一君はこれを言いたかったのかもしれないのだ」
 太一君は本当のことを言わない。いや言うのだが迷路のような曲がりくねっていて真意がまったく見えない。
「だからみんなと同じように数珠をくれなかった」
 一人旅じゃないんだから一人で全て負う必要ない。
 実際かなり疲れていたのだ。儀式の時。
 だから亢宿にも気づかなかった。
「余裕がなかったのだ」
 太一君がくれた数珠を握り締める。
 力のこもった玉で作られたそれは以前のものとは明らかに別物だ。
 ほんの少し気を込めるだけで腹の底からうねりを上げるのを感じる。
 本来の力を高める。つまりは気を高める。しかしどんなに優れた道具でも
「扱うのはオイラなのだ。しっかりしないといけないのだ!」
 半端な精神は身を滅ぼす。身を持っている知っているはずなのに。
 そしてもう一つ、太一君が言いたかったことは。
 宮殿の奥、誰も人の通らないそこは陛下の私室。そこからこちらへまっすぐ向かってくる気配が一つ。
「ここ、魚いたっけ?」
 美朱が元気のない理由はおそらく太一君に言われた巫女の心得の話。彼女なりにどう受け止め解釈したか。
 そんな彼女に年長者として出来ることは?



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
サンタタグ参加ありがとうございます。むおんさん。

クリスマス→贈り物+太一君で太一君からの贈り物。
ということで儀式でもらった数珠の話です。
もちろん原作にはそういう素振り一切ないのでこじつけ感満載な話ですけど。
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