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ある日のこと





 ポツリポツリ。

 そろそろ降るかもしれないと思ったがやはり。

 動物というのは敏感で気づくよりも早く、どこかへ行ったと思ったら洞窟というには小さすぎるが雨風を防ぐには十分な穴を見つけ僧侶を連れていく。

 おかげで被害は最小限だが、温暖な紅南国とはいえこの季節は少々いやかなり寒い。

 火を焚いて暖をとる。

 ぱちぱちという特有の音を聞きながら通り雨が過ぎるのを待つ。

 少しするとバシャバシャというあわただしい足音が近づき、少年が一人ひょっこりと顔を出した。

 先約がいたことに少々驚き戸惑うが、子供好きの笑みを浮かべ手招きするとおずおずとこちらへやってきた。

 やはり寒かったらしく火にかじりつく様に暖をとる少年に手ぬぐいを貸す。

 聞けば友達と遊んでいた帰りに道草を食っていたら雨に降られたらしい。こんなことなら早く帰ればよかったとふてくされる少年に、少年に分からぬように笑む。

 にゃー!と袈裟の中で暖をとっていた突然猫が飛び出した。猫がいたことに驚いたのかそれとも動物が苦手なのか思わず外へ出ようとする少年を制止する。

 一定の距離を保ちながら猫から目を離さない少年に大丈夫だと声をかける。不審に眉を顰めながらゆっくりと近づきそっと手を出してみる。

 ペロリ。

 一瞬びくりと体を揺らすが、大人しい猫の体を撫でてみる。

 目を細める猫に少年も、そして僧侶も自然と笑みが出た。

 壁に囲まれた場所というのは総じて音が響くものである。

 ぐ~っという音に自らの音に少年は顔を赤く染める。

 互いに視線をさまよわせた後、男は懐から何かを取り出す。

 それは赤ちゃんの拳ほどの大きさの餅。

 僧侶の性格上すぐに少年に渡すだろうが眉をハの字にするだけ。今朝もらったものだが食べるには少々固くなってしまった。

 僧侶は穴の隅に落ちていた木の枝を餅に刺すと火で炙りはじめた。

 餅が次第に膨らむ様を目を輝かせて見る少年にクスリと僧侶は笑う。

 じとっとした目で一瞬見られたが、それよりも食欲のほうが勝ったらしく餅を爛々と見つめる。

 頃合いで少年に渡すとにんまりと笑った。

 利口な猫に「俺のは?」とでも言うように訴えられたがとても猫に餅はあげれないし、食べないだろう。

 そ知らぬふりをすると猫は僧侶に襲いかかる。

 痛い痛いというがさして痛そうには聞こえない。良くあるじゃれ合いなのだろう。

 食べ終わったころ、背からぬくもりが少し感じて振り返るといつの間にか雨は止んだようだ。

 少年は立ち上がると穴の外へと出る。

 何度も礼を言う少年を見送って、僧侶も重い腰を上げる。

「さて、オイラたちもそろそろ行くのだ」








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