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幼少期





 母に甘え、抱っこ抱っことせがみ、にっこりと屈託なく笑う。
 我も強く、やりたいと望むも、幼くまだ不器用で思うようにならずに怒る。
 父を慕い、書を読む後姿を見て育ち、好奇心も知識欲も旺盛でこっそりと忍び込んでは叱られて泣く。
 友を思い、転んで涙を流した友に、まるで自分のことのように悲しむ。

 喜怒哀楽が激しい子。
 けれどこの年頃の子はどの子も同じようなもので誰もがこの時期を通り1つ1つゆっくりと大人への階段を上る。
 我が子もこれだけならばどこにでもいる普通の子供。
 違うのは星の宿命を持って産まれたからなのか。

 ある日のこと。芳准の両親が遠縁の葬式があり幼い芳准を残し栄陽に行くことになった。
 両親2人と離れて一月ほど過ごすということ、必ず帰ってくるということ、乳母もいるし、何よりも父も母も芳准のことを想っている。と何度も何度も諭した。
 聡明な我が子は寂しそうに顔を歪めたものの「分かった」と納得した。
 けれど旅立つ両親の背を見たとき芳准の様子が変わった。
「あ…」
 伸ばす手は届かず。
「父様…」
 涙がこぼれる。
「…母様…」
 そばにいる乳母が芳准に気づき大丈夫だと手を握る。
 馬車に乗る両親。
「会えなくなる」という現実が幼い芳准の心を支配する。
「いやだ…」
 とめどなく流れる涙。
 思わず手を振りほどき駆けるが馬車は芳准から逃げるかのように動きだす。
 それだけが今の芳准の現実。
「………」

   その時、ドンッ!という大きな音と突風が吹き砂煙が舞った。
 その衝撃に近くにいた乳母は数メートル吹き飛ばされ、馬車は大きくバランスを崩し転倒した。
 そして突風の中心地、芳准はわんわんと泣きながら両親に駆け寄った。
「父様ー!母様ー!」

 幸いにも両親には打撲だけで済み、乳母は少しの間気を失ったが大きな怪我もなく無事に意識を取り戻した。
 遠縁には詫びの手紙を送り、李家の代表として弟、芳准の叔父夫婦が出席した。
 安堵と泣き疲れて眠ってしまった我が子を両親は優しくなでる。
 頭がよく優しい子。けれど喜怒哀楽が激しく癇癪が起これば手を付けられないことも多々あった。
 産まれたときにあった右膝の字。
 その意味は知っていたがその意味の初めて目の当たりにした。
 長男、しかも長子。
 幼い子はこんなものだと芳准の祖父母も周囲の大人たちも言ったが、芳准の場合はもっと気にかけるべきだと改めて思い知った。
 恐らく無意識に出た片鱗なのだろう。
 そして、この能力(ちから)が意味することを思い、天で光る星を見上げた。


「これは父様の大切なものだと何度も言ったでしょう?」
 最近字を読むことを覚え、子供向けの簡単なものなら読めるようになった。
 だから父親の真似をしたかったのだろう。
 大人でも難解な書物を抱いて泣くばかり。
 頭ごなしに叱るだけでは逆に頑なになる。けれど「なぜ」「どうして」と理由を諭しても感情的になった子は何を言っても通じない。
 普段は年相応以上に何事にも理解を示してくれるというのに、やはりまだ幼い我が子。
 息を吐き、手を差し出しぎゅっと抱きしめる。
 トントンと優しく背を叩き、落ちつた頃を見計らって声をかける。
「芳准は父様が大好きなのね?」
 コクリと頷く。
「では、この書物がなくなったら父様はどう思う?」
「かなしい」
「芳准は、父様が悲しい思いをしてもいいのかしら?」
「いやだ」
「だったら…」
「ごめんなさい」
 よく出来ましたと少々大げさに褒める。そうすると泣いていた子はにっこりと笑う。
「母様はね、芳准の笑った顔大好きよ」
「え?」
「芳准の笑った顔を見るとね、母様とってもうれしくなるの」
「本当!?」
「それに父様もどんなに疲れていても芳准の笑った顔を見ると元気になるっておっしゃってたのよ」
「僕が笑ったら?」
「そうよ」
 するとみるみる芳准の顔が笑みが深くなる。
「僕もね、父様や母様が笑ったらとってもうれしい!」
「それに」
 秘密よ、とでも言うように声を少し小さくする。
「笑顔だと楽しいことももっと楽しくなるの。悲しいことも悲しくなくなるの。それって素敵でしょう?」
 そう言うと笑顔いっぱいに、「うん」と言った。
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