何で…
飛皋には芳准が不思議でたまらない。
木登りだ!と言い出したのは自分だ。
競うように走り出し先に登りはじめたのは足の速い飛皋が先。
芳准が登りはじめようとしたとき、芳准の真上にいた飛皋は枝を掴んだ拍子に明け方の雨のしずく一気に顔に落ちてきた。
突然のことに驚き思わず飛皋は手を滑らして芳准の上に落ちた。
それほど高くはなかったとはいえ飛皋が怪我をしなかったのは芳准がクッションの役割をしたから。
しかしその代償は飛び出した根に芳准は足をぶつけてしまった。
手ごろな岩に腰かけ、冷たい川の水で芳准の足を冷やす。
「飛皋、本当に大丈夫だった?」
怪訝に眉をひそめたのを痛みと受け止めた芳准は心配そうに声をかける。
どう見ても、怪我をしているのは俺じゃない。
痛いそぶりどころか、人の心配。
いつもだ。
「ごめんね、僕が気を付けてたら」
いつもこうだ。
「お前のほうが怪我してるだろ!俺なんかより!!」
思わず声を荒げる。
「人の心配より自分の心配しろよ!」
本当はこんなことを言いたいんじゃない。
大丈夫か?
悪かった。
痛いだろう?
素直に言いたいのに口から出るのは真逆のことばかり。
「そうだね」
納得いかない。
「なんでそんなにへらへら笑ってられるんだよ……痛くないわけないだろ?」
「そりゃ痛いよ」
なぜ笑っていられるのかが飛皋にはどうしても理解できない。
「でも痛いって言ったら、飛皋が悲しいから。それよりも飛皋に怪我がなかったほうがうれしいから。それだけ」
笑顔で締めくくった言葉に言葉を詰まらせる。
そうだ。
そういうやつだ、こいつは。
誰よりもそばにいる俺は知っている。こいつはそういうやつだと。
わざとらしく大きくため息をつく。そして
パコーン!
芳准を殴った。
「いってー!何するんだよ飛皋!」
「ほら!痛いものは痛いんだよ!」
「だからって殴ること必要ないじゃん!」
ぎゃーぎゃーと子犬のようにじゃれ合う。
誰よりも優しくて、人を思いやることができる。
そういうやつだから、何をしていても、一緒にいて楽しいから。
こいつはおれの親友なんだ。
ま、もっと男らしいやつだったらもっと良かったけどな。
そう意地悪く飛皋は笑った。
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